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MOVIE LOVERS' PLACE

映画の感想などを綴っていきます。

ベルイマン監督作品『野いちご』の感想など<ネタバレなし>

ヨーロッパ ヒューマンドラマ 宗教 監督

こんにちは。

 

 

本日の映画は『野いちご』です。監督はベルイマンです。

 

 

公開は1957年のスウェーデンの映画です。

 

 

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ざっくりとしたストーリーとしては、学会での名誉学位授与式に向かうために車の旅をしている主人公イーサクの記憶と幻想でつむがれるヒューマンドラマです。テーマは神、信仰、人生、家族、愛などです。

 

 

自宅のあるストックホルムから学会のルンドまで約600km、約6時間の長旅です。

 

 

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この旅のお供をするのは、イーサクの息子の妻であるマリアンヌです。息子と夫婦関係が悪化していたことからストックホルムに居候していたのですが、この度自宅に帰ることを決めたのでした。

 

 

イーサク役を演じたのはヴィクトル・シェストレムさん。当時78歳でした。「スウェーデン映画の父」と呼ばれている巨匠です。また本作が最後の映画出演となったらしいです。

 

 

高齢者の男性が主人公の映画って珍しいと思います。しかも全編に渡って彼が登場します。撮影時の体力などが心配になってしまうほどです。

 

 

このヴィクトル・シェストレムさんの演技が素晴らしいです。この時代の映画の演技って舞台劇っぽいセリフ回しが多いのですが、彼の演技はかなりナチュラルで現代人でも見やすいです。

 

 

またマリアンヌ役はビビ・アンデショーンさん。「ビビ」って可愛い名前ですね。品のある美人さんです。またベルイマン映画の常連です。知的で芯の強いマリアンヌ役がとても似合っています。

 

 

はじめは自己中心的で他者を顧みない性格だったイーサクが、旅でのいろいろな人との出会いを通じてどんどん変わっていきます。

 

 

まず映画のはじまりのイーサクのセリフがすごいです。

 

 

「人間関係とはくだらない悪口に巻き込まれることである。」

 

 

これではじまります。イーサクが自宅の部屋で犬と一緒にいるときのセリフです。かなり攻めてますね。世捨て人の爺さんのセリフです。

 

 

また自身の自己中な性格のせいで今までの人生で妻をはじめとする色々な人に迷惑を掛けてきたとも言っています。

 

 

また女性の人生観に対する彼の意見はこうです。

 

 

「女の楽しみとは泣くこと、出産すること、他人の悪口を言うことである。」

 

 

いくら時代背景もあったとはいえ、かなり偏屈な人物であることが十分に読み取れるセリフです。

 

 

そして明日は学会に向けて出発、という日の夜にイーサクはすごい夢をみます。このイーサクの夢のシーンが素晴らしいの一言です。

 

 

www.youtube.com

 

 

構図、サウンドの使い方、シーン構成、臨場感のある演技、クリエイティブな演出、全てにおいて卓越しています。

 

 

イーサクは医師であり、医療用器具の発明の権威でした。彼の今までの人生における人間関係、特に若い頃の婚約者と弟、妻、息子とのものはあまり上手くいっていませんでした。しかしながら旅を通じて知り合った人々、また見た幻想を通じて彼の価値観が変わっていきます。

 

 

80歳の偏屈爺さんが、6時間のドライブで人生観を変えてしまうというのがいいです。実際は休憩などもあり6時間ではありませんが。

 

 

色々な解釈ができると思いますが、タイトルの「野いちご」はわたしは「他者への思いやり」だと思います。厳しい自然で力強く繁殖する野いちご。温室育ちではないからこそ、雨や雪の厳しさを知っています。そんな野いちごは家族へのプレゼントであり、また温かいハートの象徴でもあります。長年「野いちご」を失っていたイーサクが、旅を通じてそれを取り戻し、人生の終焉で穏やかな心を獲得することができたのでした。

 

 

また40年に渡りお手伝いさんを務めてくれているアグダとは最早夫婦のような関係です。しかしながら、一線を超えることはなく適度な距離感を保つ二人。授与式の夜にイーサクはアグダに自分を名前で呼ぶよう提案します。距離を縮めようとしたのですね。

 

 

しかしアグダはその申し出を断り、あくまで家政婦としての自分を崩しません。これはおそらく距離を縮めてイーサクと夫婦のような関係になったら、彼の自己中さが許せなくなるからでしょう。偏屈な人に40年仕えてきたアグダには、彼女なりのイーサクとの接し方があるのでした。相手の期待感が高まると裏切られたときに失望するので、いまの関係性がちょうど良いのをアグダは知っているのですね。このアグダのシーンがかなりかっこいいです。

 

 

みどころの多い映画で示唆に富んでいて大満足でした。気になった方はチェックしてみてね!