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MOVIE LOVERS' PLACE

映画の感想などを綴っていきます。

ペドロ・アルモドバル監督『私が、生きる肌』の感想など<ネタバレあり!注意>

SF サスペンス ミステリー ヨーロッパ

こんにちは。

 

今日ご紹介する作品は映画『私が、生きる肌』です。2011年公開のスペインの映画です。

 

監督はペドロ・アルモドバルです。『トークトゥーハー』『オールアバウトマイマザー』『ボルベール<帰郷>』『抱擁のかけら』などなど多数手がけている監督です。

 

 

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この映画は、ある天才医師が人工皮膚の開発に没頭するのですが、その背景にはいろいろな出来事があり・・・

 

というようなストーリーです。

 

www.youtube.com

 

この映画では色鮮やかな衣装がたくさん見られるのですが、手がけたのはジャンポールゴルチエです。『フィフスエレメント』なども手がけたデザイナーですね。

 

 

またプロダクションデザイナーはアンチョス・ゴメスです。ペドロ・アルモドバル監督とはいろいろな作品で一緒していますね。プロダクションデザイナーとはセットなどを担当する美術監督などをスーパーバイズする役回りで、予算やスケジュールなどをコントロールしています。また自分でデザインも手がける人も多いです。作品の世界観を決定する重要なポジションですね。

 

 

アンチョスゴメスはコレクターとしても有名ですね。テーブル、椅子、カーペットなどいろいろなものを収集している人で、作品で私物を使うこともあるようです。なんでもカーペットは自宅だけでは入りきらず、倉庫にも保管しているとか。すごいコレクション魂ですね。

 

 

さて『私が、生きる肌』ですが、これでもかという位に人間の本質を鋭く描き出している作品です。

 

 

肌は万人が持って生まれるものですが、生きていくに従って今まで経験したものや本人の思想なんかが刻まれていきます。

 

 

この映画はミステリーやサスペンスとして捉えられがちな作品ですが、SF的な要素も入っていると思います。例えるならば手塚治虫さんの『ブラックジャック』みたいな世界観でしょうか。

 

 

 

<ここから先ネタバレあります!注意>

 

 

 

 

 

 

 

 

この映画では天才外科医であるロベルが、過去に亡くした妻にそっくりの容姿の人物「ベラ」を性転換手術によって作り上げます。事故によりおった重度の火傷にショックを受けて自殺してしまった妻のためにも完璧な肌を作りたかったのですね。また性転換手術の対象になるのは、愛娘を死に追いやったと言われている青年です。

 

 

これが亡き妻や娘への愛によるものかどうかという点ですね。

 

 

個人的には「否」だと思います。

  

 

まず、見た目だけ再現しても本人ではないことは自明ですね。肌には生きてく上でその人が培った経験、思想、知恵などいろいろなものが刻印されていくのです。どんなに手術でそっくりの容姿を作り上げても、それはその人には成りえません。

 

 

また娘の死因についても、これは誘拐された青年のせいにするのは少し酷ですね。二人はもともとパーティーで知り合った仲ですし、「強姦」というには無理がある状況でした。娘も酒とドラッグをしていましたし、服を脱いだのも自分からです。どちらかというと母を亡くしたことでトラウマを抱えていた娘が、他人と肌を合わせたことで精神病を再発させてしまったというのが事実に近い気がします。そして青年はそれを知る由もありませんが、娘の常用していた薬や、彼女の言葉「ハイヒールもセーターも嫌い。裸で生きていけたらいいのに。」などから読み取れます。彼女のなかでは幼い頃に母を失ってしまったことがずっと深い心の傷になっていたんですね。悲劇は連鎖してしまうということでしょうか。

 

 

またマリリアの息子のセカが屋敷を訪れ、マリリアを監禁しベラを襲うシーンがあります。実はベラはセカに外に連れ出してもらうためにセカの要求に応じるんですね。二人が取引する会話のシーンがあります。ロベルが帰宅してから、セカを射殺するわけですが、ロベルは少し躊躇します。二人まとめて撃つか、セカのみか。迷った挙句セカのみ射殺するわけです。これはマリリアから「ベラはいつか私たちを裏切る。早めに殺そう」と言われていたのもありますが、ベラがセカと取引したことをわかっていたのでしょう。また本当の妻のガルがセカと浮気をしていたという事実も二人の会話から読み取れます。

 

 

つまりロベルは心の底から女性を信じているわけではないのです。

 

 

また性転換手術が完了したところで「ベラ」という名前を与えます。本当に妻を蘇らせたかったなら妻の名前ガルを与えると思うんですよ。でもスペイン語で「美しい」を意味するベラと名付けた。これには自分の作品に対するプライドと満足感が読み取れます。ベラが二人で普通の夫婦みたいに生活したいと言っても応じないのは、亡き妻との幸せな生活を取り戻したかったわけではないからです。

 

 

他にもロベルが盆栽を育てているところからも作品愛が読み取れます。盆栽は植物を鉢の中で美しい状態を保つための技術ですね。また屋敷に飾ってある顔がない2人の男女の絵画も特徴的ですね。顔がない状態って匿名性が強いですね。

 

 

ロベルの美しくて完璧な肌への執着は亡き妻や娘への愛情とは言い難そうです。もともと実の母はお手伝いさんのマリリアなのに、正妻が公的には母となっていたところから複雑な生い立ちが読み取れます。

 

 

この映画は結構序盤で人間関係の謎を明らかにするシーンがあるので、ここで出しちゃったら後半はどうするんだろう?って思いながら観ていたのですが、後半はさらなるどんでん返しがあったのがとても良かったです。あとヨーロッパの映画らしい美しい映像世界が素晴らしいです。

 

 

面白かったですがちょっと刺激的なシーンも多いので苦手な方は要注意ですね。イメージとしては金曜日の夜に部屋を暗くしてワインを飲みながらソファーで観る映画って感じです。